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数値限定発明の進歩性判断に関する大法院判例

Ⅰ. 事件の争点
先行文献に示された進歩性否定の根拠となり得る一部の記載だけに基づき数値限定発明の進歩性を否定することができるかどうかが争点となる。

Ⅱ. 判決の要旨
大法院は2022年1月13日2019フ12094判決(以下「本判決」)において、数値限定発明の進歩性判断は、先行文献に示された一部の記載だけでなく、通常の技術者が先行文献全体から合理的に認識することができる事項に基づき行わなければならないと判示した。

Ⅲ. 判決の詳細
本件第1項発明は、鉄合金シートの表面に存在する酸化物を化学的結合により除去するために、鉄合金シートを、溶融酸化物浴に浸漬する段階を含むことを特徴とする、鉄合金シートの表面処理方法に係る発明である。本件第1項発明は、溶融酸化物浴の粘度は0.3・10-3Pa.s~3・10-1Pa.s、溶融酸化物浴の表面は非酸化雰囲気に接しており、溶融酸化物浴の組成中のLi2Oの含有量を10%w≦Li2O≦45%wに限定している。
先行発明は、「鋼帯の焼鈍法」に係る発明で、100ポイズを超えない粘度を有する950℃以上の溶融塩浴に鋼帯を浸漬することにより鋼帯を焼鈍し、鋼帯を浴外に取り出すことにより鋼帯上に塩の凝固被膜を形成し、冷却により凝固被膜を破壊して鋼帯表面から剥離することを特徴とする。

ア. 特許法院の判断
[1] 特許法院は本件出願発明の進歩性を判断するにあたり、本件出願発明における浴の粘度は先行発明における浴の粘度とその数値範囲が重複し、本件出願発明のように浴の粘度を限定した場合にシート表面の酸化物の付着量がどの程度かを立証する客観的な資料がないという点等を根拠に、本件出願発明における浴の粘度の数値範囲には臨界的意義がなく、通常の技術者が先行発明から通常かつ反復の実験により選択・実施することができる単なる数値限定に過ぎないと判断した。
[2] 一方、先行発明の明細書には「6.0%を超えるLi2Oの添加は、凝固被膜と鋼帯表面との密着性が良すぎて、凝固被膜の剥離性が悪くなるので避けるべきである」と記載してはいるが、Li2Oの含有量を限定する主な理由が浴の「粘度」を低減するためであり、この浴の粘度は、通常の技術者がLi2Oを含む浴の組成や温度等の環境を考慮して適宜調整することができるが、(ⅰ) 両発明は、浴の粘度を低減することによりシート表面への酸化物の付着量を少なくしようとする点で差異がなく、(ⅱ) 両発明における浴の粘度も重複し、(ⅲ) Li2O含有量の数値内外で顕著
な効果の差異があることを確認することができる資料がないという点等を理由に挙げ、本件出願発明のLi2O含有量比は、通常の技術者が先行発明を実施しながら通常かつ反復の実験により適宜選択することができる程度の単なる数値限定に過ぎないと判断した。

イ. 大法院の判断
[1] 先行発明に、溶融塩浴の好ましい粘度が「100ポイズ以下」と記載してその下限を明示していないとしても、先行発明は、溶融塩浴に浸漬した鋼帯表面に凝固被膜を形成することができるほどの付着性のある粘度範囲を前提とする発明であるから、通常の技術者であれば、先行発明の全体的な記載を通じて、凝固被膜を形成することができる最小限の粘度が先行発明の粘度範囲の下限になるであろうことを合理的に認識することができ、一方、粘度が100ポイズに比べて低すぎて、本件出願発明のような「0.003ポイズ~3ポイズ」の範囲では凝固被膜を形成することができないところ、先行発明の粘度を「0.003ポイズ~3ポイズ」の範囲まで下げる形にするのは、先行発明の技術的意義を喪失させるので、通常の技術者が容易に想到することができないと判断した。
[2] また、Li2Oの含有量比が6.0%wを超えると剥離性が悪くなるので避けるべきであるとの先行発明の開示内容は、6.0%wを超えるLi2Oの添加について否定的教示とみることができると前提としたうえで、本件出願発明を既に知っている状態で事後的に考察せずには、通常の技術者がこのような否定的教示を無視し、先行発明のLi2Oの組成比を本件出願発明の範囲である10%w≦Li2O≦45%wに変更することはできないと判断し、本件出願発明は先行発明に基づき進歩性が否定されないと判示した。

Ⅳ. 示唆点
数値範囲を限定する発明の進歩性判断において、従来の大法院判例では、数値限定発明の進歩性が認められるためには、限定された数値範囲の内外で異質若しくは顕著な作用効果の差異が生じなければならないとみており、韓国実務でも、先行発明と課題が共通し、数値限定の有無にのみ差異がある場合、数値限定発明に限定された数値を採用することによる顕著な効果等が記載されていなかったり、これを立証することができない場合は、顕著な効果が生じるとはみることができないとみて、進歩性を認めてこなかった。
しかし、このような従来の韓国実務の一般的傾向とは異なり、本判決では、先行発明に開示された数値範囲を、先行発明の課題及び目的を達成することができる範囲内で通常の技術者が合理的に認識することができる範囲に限定解釈し、数値限定発明の進歩性を判断するにあたり、数値範囲の臨界的意義、すなわち限定した数値範囲の内外における顕著な効果の差異を優先的に考慮するよりは、先行発明の全体的な記載を通じて、通常の技術者が事後的考察なしでも当該数値限定発明を容易に導き出すことができるかどうかを基準に進歩性を判断しなければならないと判示した点で意義がある。また、先行発明における否定的教示と事後的考察との関係を明らかにした点でも大きな意味のある判決といえる。
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